令和4年9月の総会にて、次期シクロデキストリン学会会長を拝命いたしました東京大学の伊藤耕三です。 上智大学の早下隆士前会長には、コロナで学会の運営が大変だった2年間、学会のために多大なる時間と労力を賜りました。この場をお借りして、心より感謝を申し上げます。

本学会は、シクロデキストリンに関する研究・開発を行っている理学、工学、薬学、農学、食品科学などの幅広い分野にまたがる会員によって構成されている学術団体です。本学会の主な活動は、年に1回開催されるシクロデキストリンシンポジウムの運営、また、国際シンポジウムの企画、支援のほか、学会賞、貢献賞、奨励賞の表彰があります。

第1回シクロデキストリンシンポジウムは、1981年に田伏岩夫先生(京都大学)のもとに開催され、2022年には第38回が石丸雄大先生(埼玉大学)のもとで開催されました。同様に国際シクロデキストリンシンポジウムも、1981年に第1回がJozsef Szejtli先生(Chinoin社)が世話人となりハンガリーで開催され、2022年には第20回がAntonino Mazzaglia先生(CNR-ISMN)が世話人となりイタリアのシチリア島で開催されました。日本ではこれまで1984年に第2回(東京)、1994年に第7回(東京)、2008年に第14回(京都)、そして2018年に高橋圭子先生(東京工芸大学)と早下隆士先生(上智大学)のもとで第19回(東京)が開催されています。また、アジアシクロデキストリン国際会議(ACC)は、2002年に第1回が服部憲治郎先生(東京工芸大学)、山本恵司先生(千葉大学)のもと千葉で開催され、 2019年に第10回ACCがCheng Young先生(四川大学)のもと中国の成都市で開催されました。
 
環状オリゴ糖であるシクロデキストリンは、水溶性であり、環の大きさに基づくナノサイズの疎水性空洞を有することから、様々な有機分子を包接し水中に溶かす機能や、水、酸素や光と反応しやすい分子を保護する機能を持っています。シクロデキストリンは天然物由来であり、食品添加物としての安全性も確認されていることから、インスタントコーヒーやチューブ入りわさびなどの食品産業、 徐放性を利用した芳香剤や消臭剤などの家庭用品、注射剤やドラッグデリバリーシステムなどの医用材料など幅広い分野で利用されています。 最近では、ニーマン・ピック病c型の治療薬として、シクロデキストリンの機能が注目されています。またシクロデキストリンの分子認識機能を用いた新しい研究として、1992年に原田明先生(大阪大学)が世界で初めてシクロデキストリンを使った水溶性高分子の分子認識に成功し、シクロデキストリンネックレスやシクロデキストリンナノチューブなど新しい超分子材料が開発されました。日本では超分子化学に基づく世界の第一級のシクロデキストリン研究が展開されています。
 
シクロデキストリン学会は、会員数は200名程度の中小規模のアットホームな学会ですが、シクロデキストリン研究に携わる様々な分野の研究者・技術者が、国内外で、毎年、活発な研究発表や情報交換を行い、世界のシクロデキストリン研究のイニシアチブをとっています。今後もシクロデキストリンを用いる新しい研究分野の創出を期待して、会員の皆様とともに、一般の人々の生活をより豊かなものにすべく、大学、企業を問わず研究者としての使命を果たす役割を担って活動していくことを祈念しています。
 
シクロデキストリンに少しでも興味のある研究者・技術者の皆様のご入会を、心より歓迎致します。